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昨日借りた『ゆれる』を見る。

あぁ、西川美和は巧い。
ウマいなぁ。
脚本も巧ければ演出も巧くて編集も抜群に巧い。

映画が始まってわずか1分40秒でオダギリジョーの演じる男(早川猛)がどういうヤツかというのを見事に描き出してしまった。
水の入ったペットボトルをごろんと車のフロントグラスに投げ出して、レトロなフォードのエンジンをかけて走り出すそのイントロでもうガッチリと心を掴んでしまう演出はお見事。

彼の所有するもの、ファションの一つ一つが無言で「猛」という人物像を浮き上がらせて、このオープニングだけでもう彼に関しては十分すぎる情報量を受け取ることができる。

非常によく出来た脚本を非常に巧い俳優が演じると、こういう相乗効果を生み出すのだという代表例のような作品なんじゃないだろうか。
とにかく登場する全ての役者が適材適所で素晴らしい。
田舎を飛び出し華やかな世界で活躍する弟の猛(オダギリジョー)、田舎で家業を継いで地道に生きる実直な兄・稔(香川照之)、都会(=弟)に憧れながらも一歩を踏み出すことができずに田舎にとどまり兄弟の間に立ってしまう智恵子(真木よう子が好演)、兄と父が経営するガソリンスタンドで働く青年(新井浩文)、猛と稔のように兄弟間の確執を持つ父(伊武雅刀)と伯父(蟹江敬三)…皆それぞれの立場で、それぞれの思いを秘めて人生を生きている。

あの渓谷の吊り橋で起きた出来事は、事故だったのか殺人だったのか――。
それぞれの立場で、それぞれの主観によって描かれる出来事に真実というものは存在しない。

吊り橋の上にいた稔と智恵子の会話を聞き取れなかった猛には、彼の眼に映ったものだけが残る。
兄を信じていた時まではあの出来事は「事故」に映り、兄の本心を知ってからは「殺人」に映る。
物事には表と裏があって、それらは表裏一体となってどちらも本当なのだから。

弟思いの優しい兄を演じながら、実は自分の不本意な人生に比べ自由に活躍する弟を嫉む気持ちのあった兄。
自分のことを信じてくれていると思っていたのに、実は見透かされていた弟。
わずかな歯車の食い違いが兄弟の愛情を遠ざけて、取り返しのつかない方向へ走り出してしまう不条理さ。

吊り橋での「事故」は「事件」となって兄は社会的に制裁を受ける。7年の月日を経て兄の存在に重さに気づいた弟が兄を迎えに行くラスト、これまで呼びかけたことがなかったであろう兄に力の限り声をかける。

「兄ちゃん、家に帰ろう」

弟の呼びかけに気づいた兄は弟に気づいて「おう、久しぶり」といわんばかりに微笑み返す。彼の笑顔とその後の彼のアクションは、停車したバスに遮られたまま時間は止まる。

彼はやって来たバスに乗ったのだろうか?
乗らずに弟と家に帰ったのだろうか?

わたしには、あの兄の笑顔は新しい世界へ踏み出す希望の微笑みに映った。
彼は初めて町を出て、誰も彼のことを知らない場所に行って、そして旧い世界を後して新しい人生を歩むのではないか――。
あくまでもこれはわたしの勝手な想像で、結末は観る者の主観に委ねられているのだけれど。

後味のよい爽快感でもなく、かといって後味の悪い不快感でもない、そのどちらでもないニュートラルな「ゆれる」感覚、何とも言えない浮遊感を残して映画は終わる。

クレジットのビリングはオダギリジョーがトップ、続いて香川照之なのだけれど、この2人のきめ細やかな心理描写は甲乙つけがたく、ダブル主演といって差し支えない。そのぐらい彼らの演技はずば抜けて上手かった。
その演技を引き出す西川美和の演出もまた素晴らしかった。

こういう映画は深くて重い。
そうしてものすごく余韻が残ってたまらないな。

テーマ:映画感想 - ジャンル:映画







オープニングタイトルとエンディングクレジットがまるで同じ映画のようには見えなかったです。
原作から脚本、演出まで一手に引き受けるこの監督の技量には驚くばかりです。
オダジョーも彼女のためならなんでもやった、と感想を言っていましたね。
ラストの解釈、わたしも同感。それにしても憎らしいほど巧い終わり方でした。
前作「蛇イチゴ」の宮迫と、つみきみほと、大谷直子と、平泉成がまた良いんですよ。ぜひ。
あ、親戚のおじさん役で河原さぶも出てました。鳶の棟梁には見えませんでしたね。(笑)
【2007/03/12 00:33】 URL | デヘ #-[ 編集]
昨年、映画が公開される前に予告編を見た時、もっとサスペンス色のある重い空気の映画かと思っていました。劇伴もちょっと心象風景を描くようなピアノ曲だったし。
確かにオープニングの意外に(?)ポップな印象と、エンディングの和み系の「家に帰ろう」はわたしの予告編からイメージした映画の雰囲気とは違いましたねぇ。重くなかった。(笑)

そうそう、河原さぶがまたよくって、彼の演じる「どこか憎めない人」は天下一品ですね。

「蛇イチゴ」も今度見てみることにします。
【2007/03/12 01:06】 URL | elsur #-[ 編集]














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