昨年のNHK大河ドラマ、「新選組!」に【今】はまっているわたしです。
現在見ているのはちょうど中盤を担っている回がずっと続いているところで、芹沢暗殺、池田屋事件、大阪与力・内山暗殺、そして山南切腹と、新選組ストーリーではずせないエピソードばかり。
そしてそのどれもが心をわしづかみにするような脚本、演出、演技なので、続けて見ると本当にノックアウトされっぱなし。これらがそれぞれわずか45分(1話分)の中に存分に凝縮されている。これはすごいことだ。
工夫を凝らす三谷幸喜も、それに応える役者たちも。1年という長い期間だからこそ可能になった、それぞれのキャラクターの個性を光らせるエピソード群、周到に張り巡らされた細かい伏線の数々、そしてキャラクターを味わいのある人間に具現化し、丁寧に表現してみせる俳優陣。すごいドラマだなぁ。
しつこくしつこく「苦悩する局長」を描くことで人間・近藤勇の成長を見せようとする脚本に、香取慎吾は見事に応えていると思う。彼の眼の力、食いしばる歯、その一つ一つの表現は、新時代を前にして、迷いながら自分たちの進むべき道を模索する近藤勇の姿を実に人間的にしている。
あるTV誌で「主役は糞」とボロクソだったそうだが、本当にそうだろうか。彼らは表面的にアイドル"SMAPの香取慎吾”としか捉えていないんじゃないだろうか。周囲にあまりに芸達者たちが配されているから、辛い採点になってしまうかも知れない。わたしだって最初は「こんな”幼い”近藤勇でいいのか?満面の笑顔で「ハイ!」なんて答えている近藤勇でいいのか?」と思ったりした。
しかし、回が進み、彼ら浪士組がだんだんと大きな存在になるに連れ、近藤勇は「苦悩する人」に変わっていく。近藤勇のセリフの数々が、本当に近藤勇の心の奥から語られているように感じるのは、香取慎吾の人間性も含めて彼だから出来たことであり、そしてだからこそわたしたちはそれに感情移入するのではないだろうか。
もう、実在の新選組がどうであったかなんてどうでもいいこと、と思わせるほど、彼らが演じたキャラクターたちはドラマの中で生きている。
例えば「タイガー&ドラゴン」も大好きだけれど、わたしは彼らのドラマを外側から楽しんで見ることが出来た。でも「新選組!」は少し違う。
ここにいる近藤の心の痛み、突き進む土方の信念、時には厚すぎる山南の情、そして沖田の若さを、みんなわたしたちが肌で感じるのと同じ体温で描かれているから、ものすごくはまりこんでしまうのだろうと思う。
そういう感情面とは裏腹に、斬り合いのシーンではただ純粋にアドレナリンが上昇する――芹沢暗殺、池田屋襲撃、大阪の与力・内山暗殺。
池田屋の階段を静かに登り、過激派攘夷浪士たちを見つける近藤。
セリフなく、戸の開け閉めと刀を抜く音だけ。緊張感ある演出。
「御用改めである!手向かいすれば容赦なく斬り捨てるっ!」
この近藤の渾身の一声を期に、狭い池田屋邸内で戦いが繰り広げられる。これぞ時代劇のカタルシス!!
池田屋のセットは実に見事。実際に実物大で建てた2階建ての池田屋のセットを縦横無尽に移動するカメラワークも素晴らしかった。
遅れて池田屋に到着した土方隊。激闘を続ける近藤らに
「待たせたな!」(ニヤリ)
と走り寄る土方。
この一言でまたアドレナリンがドドーッと上昇。たまりません。(笑)
池田屋事件ののち、新選組は組の行く末をめぐって微妙な亀裂が生じ、試衛館時代からの盟友・山南さんを失ってしまった。これから徐々に彼らは仲間を失ってゆく。
鴨暗殺や池田屋襲撃のような、高揚する場面はもうないのかだろうか…。
歴史は実にイジワルだ。
まだ当分の間、「新選組!」マイブームは続きそう。
とにかくこのドラマはキャストの演技が素晴らしい。
どの役にも感情移入できる人間像を作り上げ、彼らの心の痛みがガンガンと伝わってくる。もちろんそれを書いた三谷さんもすごいのだけれど。
慎吾くんは演技のテクニックを越えた部分で素晴らしく、近藤のまっすぐで強い信念が彼の目の力ひとつで伝わってくる。
本放送中、最後まで一般的にあまり評価は得られなかったということだが、第1話からずっと通してみていて、わたしには十分に彼の人間的成長(香取慎吾としても近藤勇としても)が見て取れる。それは技術的なことでは評価できないものだ。辛い点をつけた人たちは本当に全話をちゃんと見ていたのかな…。
佇まいだけで存在感を見せる堺雅人の山南さんも素晴らしかった。
彼の表情から微笑が消えるたび、ひどく不安な気持ちになった。どんな状況でもブレを見せない山南さんだからこそ彼の視線ひとつひとつが深い意味を持つのだ。「あ、いま山南さんは危惧している…」と。
そのくらい、常に山南さんの反応に敏感になっていく。
そして多摩の百姓の出自を乗り越えるべく、近藤勇と新選組を大きくすることだけに全精力を注ぎ続ける山本耕史の土方歳三。
にっかつ映画以来「ニヒル」なんて言葉を聞かない気もするけど、彼の土方は本当に「ニヒル」だ。皮肉屋で野心家で戦略的で負けず嫌い、そして目的達成のためなら手段も選ばない(&女たら し?)。
近藤のサポートに徹して徹底的に偽悪者を演じる。でも、存分に嫌われ役を演じていながら、彼を憎めない人物にしているのは山本耕史のふと見せる童顔の笑顔であったり、自分の信じるものを決して見失わない芯の強さだったり、照れながら自作の句を披露するところだったり、山南の死に声を上げて泣く姿であったりするのかも知れない。どこかのサイトで「山南と土方はコインの裏表である」とあったが、言い得て妙。
剣の達人として知られる沖田総司を、丸顔で女の子みたいに華奢な藤原竜也が演じているが、彼の若さ、無邪気さ、溌剌さがこの混沌とした歴史ドラマの中で一服の清涼剤となっている。
彼が「どっこい事件」で初めて人を斬った後の、どう表現していいのかわからないその興奮を、はにかむように「斬っちゃった…はじめて…人を…」と近藤に話す演技、そしてその姿に「嬉しそうに言うことかーっ!」と襟元をつかんで怒りを爆発させる近藤の場面は出色だった。
芹沢鴨を慕いつつ、彼の暗殺を志願する時の決意の表情と声も素晴らしかった。芹沢鴨との一件で様々な心理的な葛藤を抱え悩み成長していく沖田を、藤原竜也は繊細に丁寧に演じている。
それにしても、名場面がたくさんありすぎてキリがないなぁ。
来年1月の、土方の転戦を描く続編の制作が決定している。三谷さんからは「大河ドラマ「新選組!」を観続けていた人には最高のプレゼントに、観ていなかった人にはそれを思い切り後悔させるような作品に、したいと思います。」とのコメントが。ものすごく期待してます!でもその前に、わたしはまず本編を見終わらなければ!